海辺の光景










不思議なこと










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改訂にあたり

昨年の5月に「心はどこにあるか?」というテーマで原稿をインターネット上にアップしてから、1年余り経ちました。この間、いろいろとコメントをお寄せいただきました。「そんなはずはない」というご意見や、「目の前の世界は物質の世界ではない、と解釈することに納得はできないが、これまでの考えに疑問を感じるようになった」という感想もいただきました。さらには、「説明が分かりづらい」とのご指摘もいただきました。

前回の原稿は10数年前に書いたものであり、内容が一部古くなっている部分がありました。また説明に工夫をこらしてみたいという思いを持つようになり、新たに加筆してみました。どれだけ改善したかは不明ですが、分かりづらさに改善がみられたことを願っています。

以下に、原稿の最初の「まえがき」の部分を抜粋してお示しします。少々長いですが、原稿がどのような内容なのか、その概略をご理解いただけるかと思います。


まえがき

心はどこにあるのか?

「心は一体どこにあるのだろうか?」という、一見無意味とも受け取れる問い掛けを耳にしたことがあるでしょうか。多分初めて耳にする人が多いと思いますし、またこのような問い掛けに対して一瞬奇異に感じることはあっても、真剣に考えてみようと思う人は少ないものと思います。「心は実体の無いものだから、どこと言われても分かるはずがない」というのが大方の見方でしょう。

確かに心は物質とは異なるものですから、どこにあると言われても実感が湧かないのは当然でしょう。しかし、「では心は存在しないのか?」と問われれば、やはり「ある」と答えざるを得ないものです。一見無意味にも思えるこの問い掛けは、実は心の有り様について核心をついたものなのです。

不思議さと、その奥深さを表現するのに、小宇宙という言葉が使われることがあります。心についても「心は未知なる小宇宙」とか、「心は内なる小宇宙」と形容されることがあり、小宇宙と形容されるように、心は大きな広がりを持つものとして理解されています。しかしその広がりは、例えばフロイトが創案した無意識という言葉に代表されるような類のものであり、心が大きな広がりを持つとはされても、暗闇を覗き込むような、あるいは雲を掴むような、曖昧で具体性に欠けるものとして理解されているようです。多少具体性を持った解釈としては、人間の記憶容量は膨大でスーパーコンピュータ数台分に匹敵する、というようなものであり、あくまでも心の生理学的な側面についての言及です。

確かに心の世界には、知、情、意という言葉で表されるような抽象的な漠然とした部分もありますが、それだけで構成されているわけではありません。目を開いたときにあなたの目の前に広がる世界、それもあなたの心の世界なのです。例えば今あなたが部屋の中に居るとして、視線を左右に動かしたときにそこに見える部屋の壁、机や本棚などの調度品、視線を上に向けたときに見える天井、下に向けたときに見えるあなたが踏みしめている床、更に視線を手前に引いてきたときに見えるあなたの身体、それらは全てあなたの心の世界であり、あなたの心の世界のことがらなのです。もちろんこれは、コンクリートや木材といった物質で構成された部屋、そこに備わっている家具、そして肉体としてのあなたの身体が存在するという前提に立っての話です。そのような前提に立った上で、あなたの目の前に広がる世界は物質の世界ではなく、いわば見かけの物質の世界であり、そこに在るものは物質ではなく見かけの物質であり、更にはそこに見えているあなたの身体は肉体としての身体ではなく見かけの身体であり、全ては心の世界なのだということをお話しているのです。

心の世界は、それこそ目に見えるような、手で触れられるような、より具体的なかたちで存在する部分もあり、小宇宙と形容されるにふさわしい大いなる広がりを持つものなのです。

このような心の世界の有り様については、一部の哲学者は以前から気づいており、その不思議さが研究の動機になってきたものと思われます。しかし哲学者は心の世界の本当の姿を、哲学を専門としない人達に分かりやすく説明するという啓蒙活動はしてこなかったようです。あるいはしてきたのかも知れませんが、それは、元々理解している人には分かるがそうでない人には分からない、というレベルのものであったように思われます。今日、心の世界の真の有り様について理解が広まっていないことを考えれば、そう思わざるを得ないようです。

実は、心の世界をあたかも物質の世界であるかのように見せかける、いわばトリックとでも呼ぶべきものが脳によって仕掛けられており、そのトリックを解き明かすのは殊の外難しい作業です。

十七世紀に始まり今日に至る自然科学の急速な発展は、デカルトによって精神と物質とが切り離され、物質についての研究に専念すればよくなったことにその一因があるという考えがあります。その流れを受けて、心や意識は自然科学の研究対象とはなり難いという理由から、自然科学の分野では心や意識を扱うことはタブー視されてきました。

しかし、脳科学の進展に伴い、科学の立場から心や意識の謎を解き明かそうという気運が高まってきています。ただし、科学の立場からの心や意識についての理解は一般的な常識としてのそれと同じであり、真に正しい捉え方はなされていません。科学が心の世界を探究しようとするのであれば、心や意識についての正しい理解が必要であり、それには、いま持っている心の世界についての常識を一旦解体し、そして新たに再構築する必要があります。

心の世界についての常識は、それが間違いであるということの当然な帰結として内部矛盾を抱えています。その内部矛盾がもとで、一見したところ分からないものの、注意深く分析してみると、その常識からは説明できない不可思議な現象が生じていることが分かります。従って心の世界についての常識を解体するには、常識だと思われていることがらの中に潜む不思議さにまず気づく必要があります。そしてそれが常識を疑う気持ちに変わることで、常識の中に潜む矛盾を解き明かす探究へとつながっていくことになります。その一連の過程を辿ることで、心の世界についての常識を解体し、そして新しい概念を再構築することがでるはずです。

本稿の目的

小宇宙と形容される心の世界の本当の姿を、哲学ではなく科学の立場から分かりやすく説明したいと考えています。従って全てのことがらに先立ち、物質の世界が存在するという前提のもとに話を進めていくことになります。特別な予備知識は全く必要ありません。事実を事実として認める気持ちがありさえすれば、それで十分です。「コーヒーカップを見る」という日常的なことがらの中に、トリックを見破るヒントが隠されています。

この原稿は単なる読み物というわけではなく、皆さんご自身でこの難解なトリックに挑戦していただくものです。従って楽しく読めるというものではないかもしれませんし、また多少の忍耐が必用かと思います。道案内は私がします。話の道筋を辿っていくだけで理解できるように工夫してみました。

宗教やモラルを持ち込むつもりは毛頭ありません。しかし心の真の有り様を理解すれば必ずや世界観が変わり、また人生観も少なからず変わるものと思います。人間一人ひとりが心の世界という如何に大きな広がりを持つ存在であるかが理解でき、その結果、一人ひとりの存在の重みを改めて実感し、尊重する気持ちが生まれるのではないかと思いますし、またそうなることを願っています。


自己紹介

余りに常識離れした話であることから、エセ科学の危ない人物の話ではないかと思われるかもしれませんので、簡単に自己紹介をさせて頂きます。私(白石 茂)は早稲田大学(東京/日本)大学院博士課程(心理学専攻)を修了し、その後都内の大学で非常勤の講師(心理学担当)を長年務めて参りました。

専門教育を受けているからといってその人の考えが科学的だという証には必ずしもならない、ということは重々承知しています。ただ口はばったいことを言うようですが、客観的な事実の積み重ねで論理を展開する訓練は積んできたつもりです。

一度原稿をご覧になって、批判的に読んで頂ければと思っています。

なお、掲載した写真は本文の内容に関連したものです。



なお原稿本体はPDFファイルでアップしてあります。次のリンクをクリックしていただくことで、ご覧いただくことができます。

PDFファイル「心はどこにあるのか?」へのリンク


補説

論文「心はどこにあるのか?」は詳しい説明を心掛けた関係で、A4版で110ページほどになり、少々分量が多いかと思います。その点を考慮して、言わば短縮版としての論文「私とは何か?」が用意してあります。必要な内容は省略することなく、A4版で33ページほどにまとめてありますので、読みやすくなっているかと思います。

また、すべての基本は「見えるとは何か?」ということの理解にあります。その点を重点的に解説した論文「見えるとは何か?」があり、A4版で10ページほどです。まずはこちらの原稿を読んでいただき、それから論文「私とは何か?」を読み進んでいただくのもお勧めかと思います。URLを以下に記しておきます。


論文のアドレス

「見えるとは何か?」 脳によって仕掛けられた難解なトリック

https://www.what-visible-j.com


「私とは何か?」 脳によって仕掛けられた難解なトリック

https://www.what-am-i-j.com


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